Lesson10-2 アレルギー

アレルギー疾患を抱える子供が増加している

Skylines/Shutterstock.com

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アレルギーとは、ある特定の物質に対する免疫機能の過剰な反応のことです。アレルゲンの進入により免疫機能が働きすぎてしまい、自分の体や細胞まで攻撃してしまいます。アレルゲンとなる原因には、食べ物や金属、日光、花粉症など様々な種類があります。

現代では、日本人のおよそ3分の1がアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、蕁麻疹など何らかのアレルギー疾患を抱えていると言われています。環境要因も大きく、厚生労働省の調査によると、東京や大阪といった都市部では2人に1人は何らかのアレルギー疾患を抱えているとすら言われているのです。

アレルギー疾患の増加率は子供に関してはより顕著であり、子供のアトピー性皮膚炎は、30年の間で5〜10倍に増加しています。

アレルギーの代表的な発生原因

  • 環境:排気ガスなど空気の汚れによる影響。また、暖房や冷房など快適な生活はダニ増加の原因となり、アレルギー疾患を引き起こしやすくする。
  • 遺伝:片親の場合50%以上、両親の場合70%以上アトピー性皮膚炎が遺伝する可能性がある。
  • 食事:欧米の食生活文化による糖質・脂質・タンパク質の過剰摂取や添加物の影響。

このように、アレルギーの発生原因は私たちの身近な所に溢れています。何の不安もないように見える生活空間の中でも、突然アレルギーを引き起こす可能性があります。

gpointstudio/Shutterstock.com

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衛生仮説

現代の子供のアレルギーの増加には、化学物質や添加物の増加と合わせて、この衛生仮説が関連しているとの指摘もあります。

衛生仮説とは、「免疫機能が発達する乳幼児期に免疫反応を促進する刺激が減少することで、アレルギー疾患の発症を促進する」というもので、簡単に説明すると環境が清潔すぎることによりアレルギーが増えているとする説です。「免疫反応を促進する刺激」とは、兄弟や大人数の家族や集団生活、自然や動物との触れ合いなどを指します。

現代の日本では、たいていの場所は清潔に保たれており、都会で育つと自然や土にふれることもありません。また抗菌・除菌グッズが日常的に使用されることで、外的刺激に触れる機会がなかったり除菌のし過ぎにより、免疫機能が正常に機能しなくなります。幼少期から少しずつ刺激が加わる事で免疫機能が正常に発達して行きますが、その過程を経ることが難しくなっているのです。

不衛生の方が良いというわけではないものの、菌や感染に対して敏感になりすぎるあまり、アレルギー疾患が発症しやすくなっているのは事実です。

 

母乳

赤ちゃんを育てるときに欠かせない母乳ですが、母乳とミルクで育てた場合、アレルギーを発症する割合に差が出ています。母乳で育てたほうがアレルギーの発症割合が少なく、そのため海外の乳児栄養のガイドラインによると、4〜6ヶ月間の完全母乳が推奨されています。母乳が赤ちゃんの免疫力を上げていくため、アレルギー疾患の発症予防に有効なのです。

母乳により免疫力アップのメカニズム

免疫グロブリンA

出産してから2~3日のの母乳を 「初乳」 といいます。これは分泌量が少ないものの、その中には免疫グロブリンA(IgA  アイジーエー)と呼ばれる免疫物質を多量に含んでいる重要なものです。初乳中のIgAは赤ちゃんが飲むことで、胃や腸などの消化器官の粘膜に広がり、細菌やウイルス、アレルギーの原因となるタンパク質の侵入を防ぐ役割を果たします。

もし母乳で育ていることが難しくミルクを使用する場合でも、初乳は与えるようにしましょう。初乳を飲んでいた場合と最初からミルクのみ場合では免疫力に差が生じます。

ラクトフェリン

母乳の中に存在するたんぱく質であるラクトフェリンは、赤ちゃんの腸の中で鉄分と結びつき、腸管からの鉄分吸収を効率よくさせる働きがあります。これにより腸内の鉄分量が減少し、それにより大腸菌の繁殖が抑えられ、ビフィズス菌などの「善玉菌」が優勢になります。

腸内環境や菌の割合などは、ほぼ幼少期に確立されるとされており、これは成長してから変えることができません。そのため、この時期にしっかりと腸内環境と免疫機能を確立することにより、その後のアレルギー疾患や成人期の様々な腸疾患も発症しにくくなります。

ラウリン酸

ラウリン酸は母乳に含まれる脂質で、乳幼児の免疫力アップに役立ちます。近年ではココナッツオイルに含まれているということでも話題となっています。

また、これらの成分以外にも、赤ちゃんが風邪を引くと母乳にウイルスの抗体が含まれるようになる、という研究もあります。ミルクは栄養や吸収率は母乳に近づきつつあるものの、免疫に関して母乳に勝る事はできません。母乳育児はアレルギー予防に効果的と言えます。

とは言え、体の事情などで母乳を与えることができない母親も少なくありません。そのためどうしてもミルクが必要な場面も出て来ます。今後の症状についても不安でしょうが、まずは目先の栄養の方が重要なので、衛生面に気を付けて使用して頂ければ特に問題ありません。

FamVeld/Shutterstock.com

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アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎とは アレルギー症状の一つで、かゆみの伴う湿疹が悪化・改善を繰り返す皮膚疾患です。アトピー性皮膚炎の原因にはまだ解明されていない部分が多くあり、明確な治療方法が確立されていません。しかし、新生児の赤ちゃんに生後〜6ヶ月間保湿剤を塗ることでアトピーの発症率を30%抑えることができるこという研究結果があります。

アトピー性皮膚炎を発症する多くの子供にはある共通点が研究されており、それによるとアレルギーにかかったことがある、アレルギー疾患を今も持っている家族がいる場合においてアトピー性皮膚炎を発症する割合が多くなる、という説があります。実際片親がアトピー性皮膚炎の場合50%以上、両親ともにアトピー性皮膚炎の場合70%以上の割合で子供もアトピー性皮膚炎を発症すると言われています。

これについては遺伝的要因と生活習慣的要因が考えられます。遺伝子レベルでアレルギー疾患が遺伝する可能性も考えられ、実際に乾燥肌・敏感肌などの肌質が親と似ている場合もあります。また、親の体内に蓄積していた有害物質が何らかの形で胎児に影響している場合もあります。

生活習慣的要因としては、同じ環境で生活し同じような外的刺激を受け、同じような食事や添加物を摂取した場合、その生活習慣や食事が化学物質や添加物が多いと、遺伝的要因がなくとも親と同じようにアレルギーやアトピーを発症する可能性が高くなります。

アトピー性皮膚炎に関する注意点

赤ちゃんの肌は、皮脂分泌量や細胞間脂質のセラミドの割合が非常に少なく、バリア機能の働きが弱く乾燥しやすい状態です。掻かない・肌を清潔にすることを心がけ、いつもと違う湿疹や水疱があるなど、なんらかの異常を感じた場合は医療機関での診療を受けましょう。細菌やウイルス感染などを引き起こしている可能性もあります。

<アトピー性皮膚炎の主な症状>

  • 赤みがある。
  • 引っ掻くと液体が出る。
  • ささくれて皮がむける
  • 長期間続くと、硬くなり盛り上がる。
  • 左右対称にできやすい。
  • おでこ・目元・口元・耳・首・ワキ・手足の関節の内側にできやすい。